「第3回一宮の魅力ある海岸づくり会議」が開催された。
波乗り道場と呼ばれ多くのプロサーファーを育ててきた一宮海岸。
サーファー代表でもあり、日本の海岸環境を守る会の会長である芝本聖子氏。
海の環境問題に積極的に取り組む木下デヴィットプロ。
縦堤を延伸する8号ヘッドランド。
来年度も養浜が行われる2号と3号ヘッドランドの間。
第3回「一宮の魅力ある海岸づくり会議」開催。
全国各地で海岸侵食が進む昨今、海に手を加えることに対して、海を愛するサーファーがしっかりと監視をして意見を述べたい。
文・写真/米地有理子
12月23日、千葉の一宮町保健センターで第3回「一宮の魅力ある海岸づくり会議」が開催された。これは、波乗り道場と呼ばれ、たくさんのサーファーが訪れ、多くのプロサーファーを育ててきた志田下や東浪見などを擁する一宮の海岸の整備に関し、行政、識者、研究者、サーファー、漁業関係者、海の家関係者、土木関係者などが一同に会し意見を交換する会議。第3回目の今回は9月に行われた第2回の会議の内容を踏まえ、来年度に向けて決定をしなければいけない項目を中心に行われた。
一宮海岸に来たことがある人ならばご存知かと思うが、一宮海岸にはヘッドランド※1が建設されており、一宮川の河口から太東に向かって1号、2号と数え、現在10号まである。今回はこのうちの「8号ヘッドランドの縦堤を延伸するかどうか」と「2号と3号ヘッドランドの間の養浜※2を次年度も引き続き行うか」が主な議題となった。一宮でサーフィンを楽しむサーファーにとって、今後の一宮海岸がどのようになっていくのかは気になることであり、全国各地で海岸侵食が進む昨今、海に手を加えることに対して海を愛するサーファーがしっかりと監視をして意見を述べることは重要なことだ。
会議ではまずはじめに一宮海岸の地形変化のメカニズムについて、データ解析の資料を基に説明が行われた。そこではまず太東崎に消波堤が建設され、太東崎の崖が崩れることによる土砂の供給が減少し、漁港建設により太東の砂浜が侵食したことがわかった。その後一宮海岸にヘッドランドが作られたが、一宮海岸の砂は太東漁港の方へと流れ、海岸侵食が進み、また太東に南防波堤ができたことにより、今度は太東に多くの砂が堆積するようになったことが明らかになった。
そのような海岸の状態の上で、今回の決定しなければならない項目の1つである「8号ヘッドランドの縦堤延伸について」の数値計算による検証が行われた。検証は、①現況、②現況のままの今後の予測、③8号ヘッドランドの縦堤を延伸した場合の予測という3パターン。その結果、ヘッドランドの縦堤を延伸することにより、ある程度の侵食を止める効果があることが結論づけられた。
そこでさらにヘッドランドの縦堤を延伸した場合の波の変化がデータ解析を基に検証された。これについてはヘッドランドの縦堤を延伸しても波の変化はほとんどなく、サーフィンに影響はないという結果だった。しかも延伸することにより、離岸流の流速が夏季、冬季ともに減少するという。これらの検証から、「8号ヘッドランドの縦堤延伸」が決定された。次に、「2号と3号ヘッドランドの間の養浜について」が検討され、養浜前後の空中写真・現地写真により養浜効果が明らかにあるということで、来年度にも続けて養浜を行うということが決まった。
サーファー代表でもあり、日本の海岸環境を守る会の会長である芝本聖子氏は、再度“太東崎に消波堤ができたことによって砂の供給が減少した”ということに触れ、構造物による自然のサイクルを制御する方法についての是非を質問した。
それに対し、財団法人土木研究センター なぎさ総合研究室長の宇多高明氏はイギリスなどでは崖を崩れるままにしている例を挙げた上で、構造物で自然を制御することは不可能であり、頼りすぎることは答えのない方向に向かうことになり兼ねないと述べたが、太東崎の場合は漁港を守ることもあり、消波堤は仕方がない制御であると説明した。
また今回の会議を傍聴していたプロロングボーダー、木下デヴィットプロは、「例えば海外のピアとか、サーファーは世界中の海を見て来ているから、日本の護岸整備がおかしいと感じていると思う。自然を壊すのはサーファーは好きではない。この一宮の会議はサーファー、海水浴客、海の家の関係者とか利害関係者みんなが話し合って上手くいきつつあると思う。“海岸民主主義”として、日本中のこのような海岸問題解決のモデルケースとして参考になっていくのではないかと思う。」とコメントしてくれた。
九州大学工学研究院の清野聡子准教授も今までは縦割り行政でこのような横の話し合いの場はなく、一宮はこのように話ができるようになって全国に先駆けていい例だとし、世界の海を見ているサーファーの情報量は大きく、政治を動かしてきたと評価した。
きっとサーファーは、たとえ人工物によって波が良くなったとしても、なるべく海に人工物を増やさず、あくまでも自然の状態でサーフィンを楽しみたいと願うだろう。海の恵みに感謝をし、その変化に敏感なサーファーたちは海の守り手として今後ますます意見を発信しながら、自然との共生の時代を築いていく主体者になっていく人たちではないかと改めて思う。今後も“一宮の魅力ある海岸づくり”に注目していきたい。(2010年12月27日更新)
※1、大きな石やコンクリートで造られた消波(しょうは)ブロックで出来た人工岬。
※2、養浜(ようひん)は、露岩もしくは侵食傾向にある海岸線に砂を寄せて砂浜を造成すること。