「日本のサーフィン、その現実」
あの「日本のサーフィン、その不都合な真実」から8ヶ月。
日本は何か変わったのだろうか?
Photo / S.Yamamoto
Text / S.Yamamoto
ASP JAPANジュニアの第一戦は「Ocean & Earth Teenage Rampage」。千葉県館山市平砂浦で開催された。波自体はスモールだったものの、昨年までの常連組に各地から新たな顔ぶれが加わり、楽しみな初戦となった。
どんなサーフィンを見せてくれるのか? 元気なサーフィンを想像していた。だが、しかし、そこにあったのは、「まとめる」サーフィン。これがジュニアの試合なのか? 大会としてはジャンクなコンディションの中、最後まで誰が勝つか見逃せない展開となったものの、まるで大人の大会を見ているようだった。メリハリのあるサーフィンで優勝した大橋海人は良かったものの、特にジュニアの下のカデットクラスのサーフィンがあまりにも、だった。たくさん練習したのだと思う。昨年よりレベルはすごく上がっていた。でも、セオリー通りのワンパターンなサーフィンだったことが残念でならない。まだ子供なのだから、ハチャメチャでもいいから新しいものを見たかった。
―今は未完成でいい。
なぜ、つまらないサーフィンになったのか。それには理由はある。一つはジュニアの注目度が上がったこと。そして、スキルの向上に伴い、勝ちにこだわるようになったからと考えられる。「勝つ」サーフィンを否定しているわけではない。ただ、今からまとめる必要はない。可能性がたくさんあるうちにいろんなスタイルに挑戦することが、今やるべきこと。そして、自分の形を作るのはその次。勝敗は二の次だ。それに加え、日本の一番いけないところ。それは、すぐに大人が結果を求めること。子供は子供なりにそれに応えたいと考える。だからこうなってしまうのではないだろうか?
ここで、ASP JAPANは本年度のジャッジクライテリアの変更に伴い、高橋健人のエアーの演技に高い点を付けた。一発のエアーだけを評価したことに不満を感じた選手もいたのは事実。高橋自身も戸惑いはあったようだ。しかし、縦回転でエアーを入れてくる完成度はジュニアの中ではピカ一。そして、この評価が高橋のサーフィンを大きく変えた。単発のエアリアルから、マニューバーの中の一演技として取り入れる「攻め」のサーフィンに終始こだわるようになった。
世界のサーフィンの現基準では、「パワー、スピード、コミットメントを総合で判断する。」さらに「ラジカルで革新的なマニューバーをより重視。」これは以前から言われていること。しかし、日本ではなかなか変わらなかった。ジュニアの初戦で、つまらないサーフィンを見たジャッジはこれに危機感を持った。高橋健人の演技を高く評価することで、一番伝えたかったのは、ジュニアたちの「守り」のサーフィンを変えたかったから。攻める気持ちを持たずにこのまま育てば、世界はますます遠くなるからだ。
―自分たちのことは自分たちで。
今年もう一つ大きな動きがあった。それは日本のサーフィンの歴史では初めての事だと思う。業界の身動きできない現状に嫌気がさしての行動なのだろうか。ついに選手自身が動き出した。
それは現役選手自身がジュニアのコーチを買って出たこと。田中樹、田嶋鉄兵、高梨直人中心に作る「3T」というプロ集団。今年の夏、千葉の志田下で選手向けのスクールを開催した。参加選手は加藤嵐、高橋翔、大原洋人、菜花卓也、仲村拓久未、大橋海人、湯川正人の7人。このメンバーに田中樹、ジョーの兄弟、オニールの牧氏、ビデオのパルオ氏が加わりレクチャーした。
内容は試合のノウハウ。試合会場の情報収集の仕方と戦い方。ほぼ実戦形式で試合中のマークの仕方や外し方などなど。彼らが自分で学んできたことを実践で体験させた。田中樹は言う。「今まで僕たちは誰からも教わって来なかった。自分で一つ一つやるしかなかった。だからこそ、子供たちには俺たちが教えるんです。」田中樹はこの後、行われる ASP JAPAN「Oakley Pro Junior」でも実戦コーチとして大会中もアドバイスすることとなる。
参加した加藤嵐は言う。「いっちゃん(田中樹)が見ていてくれるだけで、安心できた。」大橋海人も「試合中にアドバイスもらえるのは心強い。」と。コーチのいない日本にとって、この申し出はどれだけ救いとなったか。「頑張れ! 」の一言で、何も教えてもらわなかった不安で一杯な子供たちは、初めて試合を面白いと思ったことだろう。
この後、大原洋人は湘南の「Shonan Super Kids Challenge」、福島の「MURASAKI Pro Junior Kitaizumi」で連続優勝。その後、茨城で行われたJPSA最終戦「ムラサキプロ鉾田」で、稲葉玲王と共に見事プロ公認を得ることとなる。また、今年JPSAのグランドチャンピオンになった大澤伸幸が中心となって、湘南の茅ヶ崎には「EXCEED」と言うチームがある。大澤自身が大橋海人ら後輩を率先して教えていくという。これも選手自身が始めた活動だ。
今までコーチの必要性は声高に述べられていたものの実践されなかった日本。協会も業界も当てにできず、選手自身が悩み考え、始めるに至ったこの現実。これを業界はどう受け止めたらいいのだろうか?
このように明るい材料が見え始めた日本ではあったものの10月にバリで開催されたASP「OAKLEY WORLD PRO JUNIOR」。期待されていたものの、なんと日本人選手の結果はボロ負け。彼らの上達には目を見張るものがあり、何とかなるのではないかと考えていた自分の予想はもろくも崩れた。やはり日本の成長以上に世界のスピードは上がっていた。これに参加した高橋健人、加藤嵐、大橋海人、仲村拓久未、新井洋人。そしてJPSAグラチャンになった大村奈央に高橋みなとは、再び現実知ることとなる。
今年の1月に改訂されたジャッジクライテリア。前にも記述したとおり、攻めるサーフィンとバリエーションを持った演技。有名無名含め外人選手は、エアリアルも一マニューバーとして取り入れ、止まらないサーフィンを目指した。その反面、日本人選手は波によって得手不得手が出るチグハグなサーフィン。完璧に経験不足と練習不足を露呈した。
―いったい何が足りないのか?
これに呼応するように今年はビラボンなどメーカーの主催するキャンプやスクールが大きく注目され、コンペを目指すジュニア選手が積極的に参加するようになった。また、ASP JAPANがU-12のGROMクラスを増設。早くからコンペを経験させる目的で、保護者と海に入る形式で試合を行った。
特にレッドブルが行った「RED BULL UNDER MY WING」。若い才能を育成するという目的で開催されたこのプロジェクトは、シェーン・ベッシェンとイアン・ウォルシュのトッププロサーファーが来日。合宿形式で未来のスター選手育成のためのレクチャーを行った。
内容はいたってシンプル。攻める気持ち。失敗から学ぶ。ビデオ撮影の必要性。自己管理。自己アピール。スポンサーの重要さ。あとは語学。いつもから言われていることだ。ただ、違うのはやはり説得力があったこと。それは実際に世界を知っているからか。日本から未だWTに行った人間はいない。これは紛れもない事実。だからこそ経験した人間の言葉は重い。
―実は日本は世界を見ていない!?
日本は今、WTの大会が無い。でも、世界のサーフィンはネットで見ることができる。そして、最新の大会や情報はアップトゥーデイトでわかる。しかし、それは所詮、画面の世界。見ないよりはましだけど、見てわかった気にはなっていないだろうか?
日本のサーフィン紙媒体が出版不況の煽りを受けて、休刊に追い込まれた。それはある意味そうだけど、そうでない。一番の理由は現場にいないから。今を見ていない。だから現状を伝えらない。ネットが速報で流す情報を同じように掲載。これでは誰も読まないだろう。これと同じ。みんな見た気になっている。
日本は島国。その中で成立しているサーフィン業界。世界へと言いながら、国内ばかりを重視していないか? まずは国内で土台を作るという大義名分。ある意味、まだ意識的な鎖国しているのではないだろうか?
―このままでは世界との差は広がるばかり。
大人を真似る子供たち。子供を見れば、どんな大人なのかがわかる。「守り」に入ったサーフィンをするようになったのは、実は何も見ていない大人が結果だけを求めたから。
「守り」。これが今の日本のサーフィンの縮図ではないのか?
今、現役選手が始めたジュニアの指導。本来なら協会、媒体、業界全体で行うべき仕事を彼らが始めたことを、まずは知るべきだ。自分のキャリアを作ることが第一でなければならないプロ選手が、なぜここまで踏み込まなければならなかったのか。それは将来の日本のサーフィンの危機を感じたと共に、自分たちが成し得なかった夢を下の子供たちに託すしかないと考えたから。
プロの世界は厳しい。才能が無いものは去らなければいけない。これは当たり前のことだ。しかし、彼らはまだ入り口にも立っていないのに、日本の現状を悲観することなく、前に進もうとしている。自分のキャリアと共に、日本のサーフィンを変えようと。まずは彼ら選手の本当の姿を知るべきだ。
大人が世界を見ていない。いや、日本の現実をも見ていない。このままでは世界がますます遠のくばかりだ。大人の意識改革。まずはこの事実を自覚しよう。
まだ何もスタートしていない・・・。