エリック・アラカワ・インタビュー

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毎年恒例、HICによるエリック・アラカワのダイレクトオーダー会が開催された。東京・吉祥寺を皮切りに全国8会場をめぐる同オーダー会ではトーク&スライドショーも企画され、エリックの世界観を共有する時間が設けられた。来場者を前に、とても柔和な表情でアンディ・アイアンズとの秘話も語ったエリックだが、しかしシェイプ哲学が話題になると表情は一転。現在もオーダーフォームと向き合い1日に15〜20本をみずからの手で削るという、こだわりある、職人気質を浮かび上がらせた。


インタビュー:小山内隆 、撮影:松本祐二

エリックのシェイピングの歴史

「14歳でシェイプをはじめ、18歳で茅ヶ崎に住んだんだ」

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−10歳でサーフィンをはじめたと聞きました。

「ボディサーファーだった父がワイキキへ連れていってくれたんだ。最初の頃はパイポボードでボディサーフをしながら遊んでいたんだけれど、そのうちに本当のサーフボードを使って立ってみたくなった。さっそくスタイロフォームのボードを借りてきて、見よう見まねでテイクオフ。すると、最初の波で横に走れてしまった。以来、今もハマっているんだ」

−当時のハワイの環境を教えてください。

「今と同じように、サーフィンしている人はふつうにいたよ。僕らはただ海で遊ぶのが楽しかっただけなんだけどね。それにサーフボードはすごく高価なものだった。そうした経済的な側面も、自分でつくりはじめた理由のひとつだね」

−14歳でシェイプをはじめたんですよね。

「欲しくても、サーフボードは高かったから。自分のモノはすべて自分でつくるようになったね。もともと手で何かをつくることが好きだった性分もある。ただサーフボードをつくりたいと思ったのは、サーフィンをしたいというパッションの延長線上にあった。サーフィンへの情熱がシェイパーの道へ進むきっかけだったんだ」

−つくりかたはどのように知ったんですか。

「友達に聞いたら、俺の兄貴がやってるから聞いてみるよ、という感じで、そのお兄さんのやり方を見たのが最初。シェイプ、ラミネート、フィンアップ、ポリッシュまで、全部自分でこなしてたんだ」

−シェイパーを職業として捉えたのはいつ頃ですか。

「高校時代にHICのファクトリーで働きはじめて、その時にサーフボード制作の行程をきちんと身につけたことが契機。それに日本とのネットワークを持っていて、18歳の時に日本へ行ったことも転機といえる。茅ヶ崎に住んで、シェイプをしながら湘南や西湘でよくサーフしてたんだよ。四国に住んでいた頃を含めると合計で2年半ほど住んでいたかな」

−日本で働いた経験について、今のシェイプにどのような影響があると思いますか。

「日本のクオリティーは素晴らしいと思うよ。プロ意識も高い。常にディティールに注意を払っているし、そういう姿勢を学んだと思う。僕はいつもベストを尽くしたいと思うし、ラミネートやブラッシングもチェックするようにしているけれど、日本人の丁寧さに教えてもらった姿勢だといえるね」

サーフボードへの品質のこだわり

「最高のできあがりと自認するサーフボードは
 おそらく今まで作れたことがないよ」

shaperoom.jpgエリックのラミネート工場

−クオリティー管理について教えてください。

「基本的にシェイパーはシェイプすることが仕事。しかし、シェイプしたブランクスに対し、樹脂で巻く、フィンを立てる、グラッシングをするという行程を経て、ようやくサーフボードはできあがる。そしてシェイプだけじゃなく、どの行程も重要なんだ。HICのサーフボードに関してはHICのラミネート工場があるので、基本的に僕はシェイプをするだけ。フィニッシュへの行程まで注視しないけれど、でも工場スタッフとの付き合いは長いから意見交換は常におこなっているし、仕上がったサーフボードを見ることもできる。一方で、僕自身のラミネート工場を3年ほど前につくったんだ。よりパーフェクションを追求するためにね。1本のサーフボードができあがるまでの全行程、最後の段階までかかわり合いを持つべきだと考えると、僕にはこの工場が必要だったんだ」

−では、グッド・ボードとはどのようなボードを指しますか。

「プロに対しては、そのサーファーが持っている能力を最大限にまで引き出すボード。一般のサーファーには、その人のサーフィンライフにマッチするボードのことだね。つまり、一般サーファーというのは、海に行く回数も違えば、日常的にサーフする波の質も違う。サーフ歴や体型など、ある人にはマッチするサーフボードだけれど、他の人にはまったく合っていないということが当たり前のこととして起きるんだ。だから、僕は1本1本のオーダーに対して、常にそのサーファーを念頭に置いてシェイプするようにしている。4つの事柄を頭に入れながらね。第1に、そのサーファーの能力。第2に、そのサーファーがよくサーフする波質とコンディション。第3に、サーフボードのマテリアル。第4に、サーファーの体型と、目指すサーフスタイル。サーファーはすべて各々のスタイルを持っているし、1本のサーフボードですべてのサーファーをカバーすることはできないからね」

−強いこだわりを持つからこそ、最終行程まで見ていたいんですね。

「ルックスも大切だけれど、サーフボードのクオリティーに関してもっとも重要視しているのはファンクションなんだ。ストレングス、フレックス、パフォーマンス、これらの要素を実現する機能性のことさ。たとえばフレックスなんだけれど、これは樹脂の量によって大きく変化してしまう。ブランクスをシェイプしただけではフレックスはブランクスのものだけでしかないよね。どのようにラミネートするかによって、サーフボードの性格は変わってしまうんだ。最終的にはそこまで管理しないと僕の求めるパーフェクションは実現できない。その意味で、最高のできあがりと自認するサーフボードは、おそらく今までつくれたことがないよ」

プロと一般ユーザーに対する普遍の思い

「アンディのボードも、一般ユーザーのボードも、
 シェイプにのぞむ僕のパッションは変わらない」

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−長くライダーだったアンディ・アイアンズは世界タイトルをもたらしました。一方でビギナー用のボードもシェイプしています。両者のバランスはどのように保っていたんですか。

「1本1本ただ一生懸命に取り組む。同じことさ。高校時代にシェイピングをはじめてから今も思っているけれど、一番難しいのは良いボードをコンスタントにつくり続けることなんだ。ペインターになりたければ、5年、10年と時間を重ねて塗り方をマスターしていくんだろうけれど、サーフィンは常に変化するからね。だから、10年前のマジックボードが現在もマジカルかどうかは非常に怪しいということができる。一例にコンペティションの世界を考えてみると、10年前と現在ではジャッジ基準が大きく違う。ハイポイントを得るためにはマニューバーを進化させなければならず、サーファーのスキルアップに応じてサーフボードも変化していく。求められるデザインが常に変わるという現実は、完全にシェイピングをマスターしたという状態が訪れないことを示唆する。時代は移り変わっていくんだ。そしてその変化が訪れるのは、アンディにしろ、一般のサーファーにしろ、同じことなんだよね」

−ケリー・スレーターに勝てるボードをつくるのと、ビギナー用のボードをつくることが同じことなんですか。

「そう、何も変わらない。特にカスタムボードなら、アンディだって一般サーファーだって、その人のサーフィンライフを思って同じように取り組むよ。プロだってビギナーだって、オーダーをくれたサーファーのサーフィンが前進する1本を削りたいからね。そのパッションはいつだって同じなんだ」

−グッド・シェイパーとはどのような人だと思いますか。

「お客さんイメージや環境を理解して、サーフボードを手がけるシェイパーだね。お客さんとしっかりつながって、その人に最適な1本を、責任を持ってつくり出すシェイパー。それが僕の思うグッド・シェイパーさ」

−サーフボードはカスタムであるべきと考えているんでしょうか。

「やっぱりそれが本当の姿なんじゃないのかな。乗り手がいて、初めてサーフボードが生まれる。僕はそういう考えでこれまでシェイパーを続けてきたよ」

シェイプのトレンドと目標。

「サーファーをインスパィヤーさせる
 サーフボードをつくるのが目標」

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−先日、ケリーが5’9”でチョープーの試合に勝ちました。近年、サーフボードが短くなってきた傾向はどうして生まれたのだと思いますか。

「ハイスコアを得るマニューバーを生むために、サーファーが進化していったことが大きな要因だろうね。実際にこうしたトレンドを見ながら、ノースショア用のサーフボードをチューンしたいと思ってるよ。10月を過ぎれば、ノースを目指す世界中のサーファーからオーダーが入るし、今年はさらに長さに対する要望も増えるだろうからね」

−この傾向は今後も続くと考えますか?

「そう思う。サーファーとシェイパーの関係というのは、いつの時代もお互いを切磋琢磨するものなんだ。ライディングのパフォーマンスレベルがあがれば、サーファーはより良いサーフボードが欲しくなる。その要求に応えてレベルアップしたサーフボードを提供すれば、サーファーはまた次のレベルを目指す。いわばパートナーシップこそが、サーファーとシェイパーの実力を押し上げ、サーフボードのデザインを変える原動力になるんだ。両者の追求心が、現在の短いサーフボードというトレンドを生み出しているんだよ。ただタヒチの試合を見ていて思ったのは、多くが短いボードを持って出場していたものの、しっかりとコントロールできていたかどうか怪しいサーファーもいたし、十分な長さのあるボードを使っていたサーファーもいた、ということだ」

−必ずしも、トレンドが万人にフィットするわけではないということですね。

「ビッグウェイブにおいて、より短いサーフボードに適応できているサーファーはまだまだ少ない。勝つために、ジャッジ基準のトレンドにサーフィンをフィットさせる必要のあるプロでさえ乗りこなせていない者もいる。一般サーファーは、この事実にもっと目を向けた方がいいと思う。僕の目標は、サーファーをインスパィヤーさせるサーフボードをつくりだすことにある。その意識は、対象がプロでもビギナーでも変わらない。もっと楽しいサーフィンライフを送るためには、今の自分にもっとも必要なサーフボードがどのようなカタチなのかを意識する必要があると思うよ」

《プロフィール》

《プロフィール》

iphone.jpgphoto:Yuji Matsumoto

エリック・アラカワ

1960年3月6日、ハワイ生まれ。10歳でサーフィンをはじめ、14歳で自分が乗るためのサーフボードを削りはじめる。1980年代後半、ハワイの著名なサーフボードメーカーの多くに請われてシェイピングをするようになり、90年代にはHICのメインシェイパーへ。世界タイトルを3度獲得としたアンディ・アイアンズとの関係は、アンディからの「乗ってみたい」というリクエストを端緒にスタートした逸話もある。ノースショアのシーズンが本格化する直前にはオーダーが世界中から舞い込む状況は現在も不変。マーク・オキルーポ、デレック・ホーというワールドチャンピオンにサーフボードを提供してきたスキルは匠の域にあり、世界に広く評価されている。現在ではジョエル・センティオ、ケコア・カジメロ、リーフマッキントッシュたちがライダーとなり、最先端のフィードバックをおこなっている。

《新作3モデル》について

《新作3モデル》について

《新作3モデル》
来日に際して、エリックは最新3モデルを発表。ライダーからのフィードバックをもとに開発された同モデルについて、エリック自身が解説をしてくれた。

HOTSPUR

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「ライダーからの『もっと浮くサーフボードが欲しい』というリクエストから誕生したモデル。テールロッカーを強く、シングルコンケイブをさらに深くして、テールのリフトを効果的に仕上げてある。ひと言であらわすなら、浮いて、回しの早いサーフボード。飛んだり跳ねたりしたいキッズにはベストなモデルだね」

HOTSPUR テストライドOK
5'9" X 18 1/4" X 2 3/16"
5'11" X 18 1/2" X 2 5/16"


M-1

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「僕のモデルの中で、一番といえるほどノーズロッカーが強いモデル。そのため縦への動きが非常にクイックになっている。センターからテールにかけてのロッカーはさほど強くなく、一方でダブルコンケイブを深くして水抜けをうながしている。マッチするコンディションとしては、パワーのある波、掘れている波、といえる」

M-1 テストライドOK
6'0" X 18 1/2" X 2 3/16"
試乗動画はこちら:
http://youtu.be/BlVyP8nCicQ


BANDIT

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「いわゆるミニボード。STUBBYよりボリュームを落として、ショートボードに近いカタチに仕上げてあるところが特徴。またSTUBBYよりも対応できる波のバリエーションが多く、縦へのマニューバーを楽しめる。ボード自体が小さいので、スケートボード的に動かせる点も楽しい。なかでも小さい波の時にオススメだね」

BANDIT テストライドOK
5' 5" x 18 3/4" x 2 1/4"
5' 7" x 19" x 2 1/4"
5' 10" 19 3/4" x 2 3/8"

アンディ・アイアンズについて

アンディ・アイアンズについて

andy.jpgeric with Andy/photo from HIC

昨年11月2日にアンディ・アイアンズが亡くなり、もうすぐ一周忌。スライド&トークショーではアンディの写真を多く使い、思い出を語っていた。プエルトリコからの一報は、アンディからのオーダー11本をシェイプし終えた時にもたらされたという。

「ちょうどその朝は、アンディの最後の1本を削り終えたところだった。9時半頃だったかな、妻に電話があってね。一報は彼女が聞いたんだ。『アンディが死んだって、そういう噂があるって』と彼女は僕に告げた。悪い噂だったらいいと思ったよ。プエルトリコの友達に電話をして真相を聞こうとしたんだけれど、分からずじまいだった。聞こえてきたのは噂ばかり。そうしてしばらくして、カウアイ島のリーフ・マッキントッシュに電話をした。すると彼はひと言めに『その話、本当だよ』といったんだ。

 アンディの素顔を伝える、こんなエピソードがある。2009年シーズンのトリプルクラウン直前、ビラボンハウスに行くと彼がたったひとりでいたんだ。当時、ツアー自体はセミリタイアしていて、トリプルクラウンにだけ出場する状況だった。しっかりとリフレッシュできたんだろう。翌シーズンからカムバックすることには興奮していて、とてもハッピーだといっていた。

 そして『海の中は何の問題もない。準備はばっちりさ。問題はビーチに戻ってからだ。どのように振る舞っていいのか分からないんだよ。ファンの期待に応えられる振る舞いができるのか…』と、弱音を思わせる言葉も口にした。アンディはスーパースターだったから、常にプレッシャーと戦っていたんだ。彼は、誰もがっかりさせたくなかった。あいつはそういう奴なんだ。

 アンディは、いろんなものを僕にくれた。メディアでの露出もそのひとつだと思う。でも一番は、もっとも重要なのはフレンドシップなんだと気づかせてくれたことだ。お金なんかじゃない。アンディは僕にとって特別な存在さ。それは今も変わらないよ」


取材協力:HICジャパン

取材協力:HICジャパン

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HIC CHIBA STORE tel:0475-42-1522  営業時間:9:00-18:00
HIC TOKYO STORE tel:0422-21-3395 営業時間:12:00-21:00
TEST RIDE STATION引き続き実地中!
HIC CHIBA STORE 千葉県長生郡一宮町一宮10055 tel:0475-42-1522
HICサーフボード:ディーラーリスト

※カスタムオーダー時にエリックとどうしても直接話しをしたい場合は
千葉ストアでSKYPEも可能です(要相談)

取材協力:HICジャパン HP http://www.hicsurf.co.jp/