サーフボードの博覧会。Sacred Craft 2010 Springレポート(5/19)

サーフメディアは国内外の最新サーフニュースを発信。サーファー・コンペティション・ファッション・インダストリー・メディア事情など多彩な角度からホットなニュースを提供しています。
HOME > Sacred Craft 2010 Spring

Sacred Craft 2010 Springレポート(5/19)


TEXT&PHOTO:冨田隆

 去る4月10日、11日にカリフォルニアのヴェンチュラで、Sacred Craft 2010 Springが開催された。2008年にサンディエゴのデルマーで始まったこのイベントは、その後も回を重ね、現在は南のデルマー、北のヴェンチュラと地域的な棲み分けがされ、すっかりご当地カリフォルニアでは定着した感がある。

 ASRがサーフィンを取り巻くアクションスポーツ業界全体の商業的一大トレードショーであるならば、Sacred Craftはあくまでサーフボード・マニュファクチャーに特化した小規模なトレードショー・イベントだ。主役はサーフボード、シェイパー、クラフツマン、サーファーたち。いまのサーフボードのデザイン・トレンドはもちろん、最先端のマテリアルから職人技によるハイエンドなクラフトまでが一堂に会する、まさにサーフボードの博覧会である。

 毎回、“Tribute to the Masters Shape-off”という目玉企画がある。これは、特定のレジェンド・シェイパーの特定のモデルを、選ばれた数人のシェイパーが忠実に再現するというもの。今回のトリビュート・レジェンド・シェイパーはサンタバーバラの重鎮、レニー・イエーター、再現対象のモデルは代表作“イエーター・スプーン”だ。いかにこれと同じものを忠実に削れるかを、ウェイン・リッチ、デニス・ライダー、ミッシェル・ジュノーなどヴェンチュラ以北から選抜された6人のシェイパーが、会場内に設けられたシェイピング・ブースで衆人環視のなか、公開シェイプで腕を競い合う。

 この“Shape-off”以外にも会場内にはもうひとつシェイピング・ブースが設けられ、そこではサンタバーバラの注目の若手ライアン・ラブレースや、オレンジ・カウンティの成長株タナー・プレーリーなど、何人かの新旧クラフツマンが各々が得意とするデザインで個性を披露した。普段は見ることのできないシェイパーの仕事ぶりを間近で見られるとあって、ブースの周りは常に人だかりができた。

 一方、会場内の各ブースに目を向けると、シェイパーやクラフツマンが自ら手がけたボードをディスプレイしている。前回開催でそのデザイン性が高く評価されたダニエル・トムソンもオーストラリアから唯一単独で出展。またアシュリー・ロイドも紅一点のシェイパーとして注目を集めた。フィンレスの進化形としては、ジョン・ウェグナーの“ブルーギル”やスコット・アンダーソンの“スライド&グライド”がポスト・オルタナティブ・ボードの方向性を示していた。

 ウッドボードのジャンルもますます完成度が上がり、ダニー・ヘスはブルーワーとガン・デザインでコラボし、メイン州から参加したグレイン・サーフボードはチャンネル・アイランドとのコラボボードをディスプレイ。ウッド工法テクノロジーとオーセンティック・デザインとのハイブリッドは、ハイエンドかつサステイナブルなボードの象徴のようだった。マテリアルでいえば、ここ最近出展の常連となったマーコ・フォームの100%リサイクルされたEPSフォームや、リサイクル可能なVフォームなど、よりグリーンなコア材が目を引き、環境配慮への関心の高さがうかがえた。

 週末2日間に渡るイベントは、その他にもジェリー・ロペスの著書のサイン会や、ピーター・タウネンドとショーン・トムソンによるクイズ・イベント、若手フィルムメーカーのサイラス・サットン主催のKorduroy.tvのフィルム上映などが会場各所で催され、オーディエンスを楽しませた。そして最後はイエーター本人による“Shape-off”の最終審査。今回のトリビュート・シェイプを征したのは、地元のウェイン・リッチだった。

 シェイプやラミネート、クラフト、普段会えないシェイパーやレジェンドたちとの出会いと交流は、回を重ねるごとに熱を帯びてきた。色とりどりのサーフボードに魅せられた良い歳をした大人が、ときに真剣な眼差しで、ときに満面の笑みを浮かべ、嬉々として行き交う姿を見て、ジョン・ウェグナー夫人はこう呟いた。「ここはまるで、大人のキャンディ・ストアね」。Sacred Craftを表現するのに、ぴったりな言葉だった。