「日本のサーフィン、その限界」
2010年度ジュニアの一番を決めるASP 「ビラボン・ワールド・ジュニア・チャンピオンシップ」 が今年もオーストラリアのノースナラビーンで開催された。そこで日本が突き付けられた数字。我々が今やらなければいけないことは何だ。
Photo / S.Yamamoto
Text / S.Yamamoto
2010年度ジュニアの一番を決めるASP 「Billabong World Junior Championship」 が、今年もオーストラリアのノースナラビーンで開催された。 World Junior は2010年から二戦あり、バリ島で行われた「Oakley World Junior」と合わせて総合ポイントでジュニア世界一が決まる。
今年の日本代表選手は、昨年と同じく大橋海人、加藤嵐、新井洋人、仲村拓久未、大村奈央の5人に加え、新メンバーに田中海周、高橋みなとの7人。
―どれだけ世界と戦えるのか?
今回も日本人選手は世界と戦える最強メンバーが揃ったと言えるだろう。期待はジュニアの意識改革の成果。昨年からジュニア選手中心に、メーカー主催のコーチングやキャンプも多く行われ、コンペティションの意識も大きく変わった。また、現役プロ選手がジュニアの面倒を見る機会も増えたことで、子供達の自覚も増したからだ。そして、今回は昨年のレッドブルのキャンプでも参加してくれたニック・コグランが現地で臨時コーチを買って出てくれた。
今年のナラビーンは天候が不安定で、時折、強い雨が降るというコンディション。スウェルのサイズは頭近くまで上がり、昨年と比べたら、まだコンスタントに波はあったと思う。ただ、くせのある波で、ウェイブセレクトとポジショニングが勝負の分かれ目。特にインサイドのパワーあるブレイクをどう処理するか、そのスキルの差が勝敗を決していた。
今年のジャッジクライテリアの変更で、エアリアルだけで8点以上のエクセレントは出ないものの、演技には必ず絡めてくる代表選手たち。バリエーションと言う意味でも、エアーは必須で、飛べるなら必ず飛ぶ。そして、メイク率が高いのも驚きだった。特にブラジリアン。昨年から新世代が続々登場していて、層の厚さを見せられた。
ガールズのタイプは二通り。スタイリッシュで華麗なサーフィンとスピードとパワーを前面に出したサーフィン。前者はマリア・マニュエル(HAW)。後者はタイラー・ライト(AUS)みたいな。ただ、主流になり始めているのは、後者のパワー全開の男の様なサーフィン。波を切り刻み、カッ飛んで行くようなサーフィンが女子にも浸透しているのが印象深かった。
さて、試合。結果から。男子は新井洋人が17位で、その他の選手が33位。女子も大村奈央、高橋みなとの9位だった。数字は昨年とまったく同じ。
―子供達は自分でできることは、自分でやるようになった。
しかし、これだけは、はっきり言える。結果が同じでも昨年と内容が違った。ラウンド1では緊張が拭えなかったものの、加藤嵐のノビノビとした戦いっぷりに日本人チームが勢いづいたこと。そして、後がないラウンド2でも新井洋人が攻め続けたことでラウンドアップ。俄然、俺も俺もと自分のサーフィンで、最後まで諦めず戦い抜いたこと。実際、試合を常にリードしていたヒートもあったぐらいだ。選手自身も戦いに手応えを感じていたからこそ悔しかったに違いない。
もちろん、続けてこの大会に出場することで、経験値が増すことがプラスになっていることは間違いない。しかし、大きな違いは個人一人一人が目的意識を持ってこの大会に臨んだことだ。練習も団体行動ではなく、個人個人がプログラムを作り、自分のペースで行動していたことが、昨年と大きな違い。
加藤嵐は言う。「自分たちは外人に比べサーフィンが下手じゃないですか。だから可能なら3日前、いや、一週間前以上に入って会場で練習しないと勝てないと思うんです。」加藤は仲村と共に、現地のコーチングを受けてから会場入りした。新井、田中、大村も同じようにそれぞれのスポンサーや友人を頼り、この試合に臨んだ。もちろん、学業のために日本で練習を重ね、会場入りした選手もいるが、目的意識の高さは皆、同じ。
そして、大会期間中、自分のやることを人に押し付けることなく、他の選手に迷惑を掛けない心遣いがあったこと。英語の重要性を感じ、積極的に外人選手やスタッフと親交を交えていたこと。サーフィンだけでなく、学業も忘れず、練習後に勉強を行っていたこと。これらを自主的に行っていた選手を改めて褒めたい。
「こんなの当たり前でしょう。」の一言で片付けるのは簡単だが、これは昨年できていなかったこと。それを大人に言われることなく、自ら行っていたことが、素晴らしい。そして、特に大きな成長が、「負け」から学べていること。自分の敗因をちゃんと理解し、次につなげる努力をしていたことだ。
みんないい顔をしていたなー。
ジュニアの選手が変わったのは、ただコーチングを受けたからだけではない。昨年の田中樹プロたちが行った「3T」のコンペスクールを良い例に、自分たちのことは自分たちで解決していくという姿勢が、ジュニアの選手にも浸透していたからだ。
大人が何もしない、できないことと裏腹に、選手自身が始めたこの活動が、一番、子供達を成長させたのではないだろうか。
―頑張って、頑張って、この結果・・・。
ここで一つの数字を報告。ASP インターナショナルから発表された結果。
ASP インターナショナルの7地域の選手が獲得したポイント結果だ。
バリで開催された「Oakley」と今大会の「Billabong」のWJC 男子トップ4人の獲得ポイントの合計である。日本だけが一桁違う。この数字を見てどう思う?
昨年の今大会を優勝したのは、マキシム・ハナセット。今年の優勝はマーク・ラコマー。
二人ともフランスだ。今年のタイトルはジャック・フリーストーン(AUS)が取ったものの、女子のタイトルは、アリーゼ・アルノーとこちらもフランス。女子の今大会の優勝はビアンカ・ビュインダッグ(ZAF)だったものの、準優勝はフランスのジャスティーン・デュポンと言う結果。
さらに昨年のWTの最終戦。「Billabong Pipe Masters」を優勝したのは、ジェレミー・フローレス(FRA)。初めてヨーロピアン・サーファーがタイトルを奪取した。
もう、ヨーロッパ勢、特にフランスが、メインストリームに出ているのがお分かりいただけるだろう。その今回のジュニアのフランスチームには、あのトム・キャロルとマーチン・ポッターというビッグネームのコーチ陣。メーカーのサポートだけでなく、国全体でジュニアを育てている成果だ。
また、オーストラリアは政府からサーフィンオーストラリアへ AUS$400万(約3億3千万円)の支援が決まっているというニュースも記憶に新しい。これは完全に国がサーフィンを「スポーツ」として支援している形だ。
―「国 対 個人」では、勝てるわけがない。
昨年から大きく成長した日本人ジュニアたち。自分は今年の彼ら選手を高く評価したい。しかし、日本はブラジル、南アフリカに抜かれ、今やヨーロッパにも離されてしまった。子供達がいくら頑張っても、無理なものは無理。それはなぜか? 国のプロジェクトに個人の選手が戦いを挑んでも勝てるわけがないからだ。
今大会でも田中海周、高橋みなとの二人が、マンオンマンを一度も経験せずに試合に臨むこととなった。コーチのニック・コグランが前日の夕方、教えてくれて練習したから、まだ良かったものの、未だ日本ではマンオンマンの経験できる試合や練習すら行われない。
「世界へ世界へ」と唱えながら何もしない日本。
これこそ、大人の口ばっかりの典型ではないだろうか?
―日本のサーフィンに限界が来ている?
大人が世界を見ていない。見ているようで、見ていない。そして、子供に結果だけを求めている。だから、昨年、現役プロ選手自身が自分たちで始めた。それを見て子供たちも自分で始めた。
でも、それは個人レベルのもの。世界各国は国を挙げて盛り上げようとしているのにだ。
これでは日本のサーフィンは置いていかれるだけだ。
まかせっきりでいいのか? 選手自身が始めたことをただ見ているだけでいいのか?
やるべきことは、日本の業界が一致団結して子供達を応援するシステムを作ることではないか?
その為に大人のやるべきこと。まずは国内オンリーの価値観を捨てるべき。
今や世界の基準があるのに、日本は日本の価値基準を頑なに守っている。
「世界は世界、日本は日本」という別のものと考えている。
そう、ダブルスタンダードだ。
これは「日本で何もできないのに、世界で通用するわけがないと」いう考え方でもある。これを否定するつもりない。しかし、この考え方が、いつのまにか「日本だけ」の価値観にすり変わり、一人歩きしている。そして、世界に挑戦して、ダメだった選手の戻る場所として。
今、問いたい? 国内だけの基準で選手を判断してはいないか? 国内の成績に価値を重くしすぎなのではないか? だから、子供たちが世界へ出ていけないのだ。世界を目指したくても、まず日本でと考える。子供達が外へ出ていけない理由の一つはこれだ。そう、足かせになっていることに気づくべきだ。
もし、日本がダブルスタンダードを続け、国内基準をも守っていくならば、世界は無い。
ならば、残された道は世界と縁を切るだけ。そう、結論、鎖国しかない。
本当にそれを望むのか?
だから、ダブルスタンダードはいらない。まずは大人がワールドスタンダードを理解して取り入れるべきではないのか?
時間は止まらない。世界はどんどん先に行く。子供達は自分たちでできるところから、努力し始めた。あとは大人が頭を切り替え、日本のサーフィンを一から組み直すこと。そして、大人の意識改革の後、サポート体制を作ることだ。
オーストラリアのように国からの援助に期待ができない。フランスやハワイみたいにメーカーにも頼れない。今の日本では親、メーカーは協会任せ、協会は選手任せにしている。
ただ、協会というものは大会を運営することが仕事。だから、子供たちを育てるためにやれることは、多くの大会を開催することだけだ。主導で動けないということも理解しなくてはいけない。
ならば、業界全体で子供たちをサポートするしかないだろう。年間計画を立て、日本独自でコーチを要請し、育成を行う。「誰かが、どこかがやってくれるはず」ではなく、業界全体で育てていくシステムを今、作るのだ。選手個人で戦うのはもう無理なのだから。
立ち止まっている時間は無い。
------------------------------------------------------------------------------------
ASP Billabong World Junior Championship fuelled by Monster Energy
Date : 2011.01.08~01.16
Place :North Narrabeen,Sydney,NSW,Australia
● Boys
優勝 :マーク・ラコマー(FRA)
2位 :ナット・ヤング(USA)
3位 :カイオ・イベリ(BRA) ミッチ・クルーズ(AUS)
5位 :キロン・ジャボー(HAW)チャーリー・マーティン(GLP)
デール・ステイプルズ(ZAF) ミゲール・プポ(BRA)
17位:新井洋人
33位:加藤嵐、仲村拓久未、田中海周、大橋海人
● Girls
優勝 :ビアンカ・ビュインダッグ(ZAF)
2位 :ジャスティーン・デュポン(FRA)
3位 :ローラ・エネバー(AUS)アリーゼ・アルノー(FRA)
9位 :高橋みなと、大村奈央
2010 ASP World Junior Champion
●Boys :ジャック・フリーストーン(AUS)
●Girls :アリーゼ・アルノー(FRA)
日本のサーフィン第2回の「日本のサーフィン、その現実」はこちらからご覧ください。
日本のサーフィン第1回の「日本のサーフィン、その不都合な真実」はこちらからご覧ください。